合間縫う腑に落ちない音楽

肩透かしのカタストロフィは続く

「ジョリヴェは蕪」とはどういう罵倒か?

鶏と蕪(かぶ)の炒め蒸し煮。蕪を見ると、亡きピエール・ブーレーズがアンドレ・ジョリヴェを罵倒した「ジョリヴェは蕪」という暴言を思い出す。

この言葉を昔どこかで読んだときには、どういう意味だか分からなかったので、日仏辞典で蕪を調べると「navet」で、「jolivet navet」をネットで検索すると、どうもブーレーズは「Joli-navet」と言ったらしい。

Joliはフランス語で「可愛い」だから、Joli-navetは「可愛い蕪」。これがどう罵倒とか暴言になるのか分からないままだったけど、さっき見たLe Mondeの2005年の記事によると、ブーレーズはプログラムにこんなことを書いたようだ。

www.lemonde.fr

Le compositeur du Marteau sans maître pousse la métaphore ménagère : "En fin de compte, devrions-nous à l'amabilité délicate d'un quelconque joli navet d'être cent fois signalés à l'attention bienveillante de la préfecture de police, nous ne lui ferons jamais subir l'outrage de servir aux plaisirs auriculaires des duchesses, etc. ; plein de déférence pour ce pâle légume, nous préserverons sa vertu."

「結局のところ、可愛い蕪の繊細な好意によって、私たちが警察の慈悲深い注意を何度も引くことがあっても、私たちは決してその侮辱を受け入れず、公爵夫人たちの耳を楽しませるために使うことはありません。この淡白な野菜に敬意を払い、その純潔を守ります」(機械翻訳)

どなたかもっと適切な翻訳をして、この問題を根本的に解決してくれないだろうか。

要するにこれは、ブーレーズが音楽監督を務めるドメーヌ・ミュジカルに対し、公爵夫人やスノッブしか惹き付けないとジョリヴェが批判し、警察によってコンサートが禁止されることを喜んでいる、と伝えられたことへの反撃だったらしい。

で、そんな間柄だったにもかかわらず、ブーレーズはジョリヴェの作品を指揮するコンサートを開く、というのがLe Mondeの記事の趣旨。記事の曲ではないけど、YouTubeから一曲、フルート協奏曲。

これからも蕪を見るたび、このことを思い出すのだろうか?

なお、こちらが検証なしに「ジョリヴェは蕪」を引用している解説文。これでは意味が分からない。一方、「ベリオはチェルニー」はあまりに直截的な罵倒。

この頃のブーレーズは過激な言動でも知られていた時期で、「オペラ座を爆破せよ」「シェーンベルクは死んだ」「ジョリヴェは蕪」「ベリオはチェルニー」といった数々の暴言が、現在のブーレーズからは信じられない刺激的なイメージを伝えてくれます。

www.hmv.co.jp