合間縫う腑に落ちない音楽

肩透かしのカタストロフィは続く

バルトークの弦楽四重奏曲第5番の謎を解く

結論から書くと、バルトークの弦楽四重奏曲第5番(1934年)は、ベートーヴェンの交響曲第5番(1808年)にインスパイア(触発)されて書かれたのではないか、という仮説である。その理由を3つあげる。

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なお、この説はよそでは見たことがないので、自分のオリジナルだと思っているけど、もし同じような説を掲げている人がいたら教えて欲しい。参考動画は文末にリンクをはった。

1.「5番」だから

5番目の曲を書こうとする人が、ベートーヴェンの5番を意識しないわけがない。人はなぜ曲を書くのか? それは他人の曲を聴いたからだ。そんな謙虚な気持ちと方法論を忘れた最近の若いもん(笑)とバルトークはワケが違う。

2.曲の頭が休符だから

ベートーヴェンの交響曲第5番は、あの有名な「運命」である。一般的には「ジャジャジャジャーン」で始まると思われているが、楽譜を見ると、あれは「(ン)ジャジャジャ/ジャーン」なのである。

 

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バルトークも「ドドドドドレレドドドドド」で始まるが、楽譜では「(ン)ドドドドドレレドドドド/ド」になっている。これはもうパロディと言っていいだろう。

 

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ちなみに、ベートーヴェンを尊敬していたマーラーの交響曲5番で、冒頭に吹かれるトランペットの葬送行進曲は、冒頭が休符でこそないが、「タタタ/ター」というフレーズであり、間違いなく「運命」のオマージュである。

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3.最終楽章の「謎の調子っぱずれ」

バルトークの弦楽四重奏曲第5番の最大の謎は、最終楽章の第5楽章だ。極めて緊張感の強いフガートが続く中、音楽はなぜかアラルガンド(強くしながらだんだん遅く)のブレーキをかけて止まってしまう。 

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そして、マンドリンのような1stヴァイオリンの伴奏に合わせて、2ndヴァイオリンが唐突にのどかな民謡のようなメロディーを弾き出す。 

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さらに、それに続いて、今度は1stヴァイオリンが同じメロディを半音上げて弾き出すのである。半音だけ上げて、ですよ! 

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伴奏の調は変えずに弾いているので、当然ながら調子っぱずれになる。あまりに唐突なことなので、あっけにとられるほどだ。しかしそのメロディーにラレンタンド(だんだん遅く。上の楽譜のrall.の部分)がかかり、間の抜けたトリル(波線部分)がピラピラと宙を舞ったと思ったら、 f:id:putoffsystem:20201218223125j:plain

再び高速フガートに戻る。

さて、この「謎の調子っぱずれ」は何なのか。2ndヴァイオリンのメロディの気になる部分を、赤で囲ってみよう。

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移動ドで赤の部分をつなげると「ドミソ・ファミレドレ」となる。

このフレーズはまさに「運命」の第3楽章から第4楽章に突入した直後の、勝利の行進曲のファンファーレと同じ音型ではないか!

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まあ、こじつけかもしれないが、バルトークをそんな風に聴いてみてもいいのではないか。悪意があるとしか思えないベートーヴェンのパロディは、反ナチスかなにかと関係があるかもしれませんね。

YouTubeの参考動画は、ジュリアード弦楽四重奏団の名演。冒頭の「ドドドドドレレドドドドド」は00:01から。「謎の調子っぱずれ」は29:00あたりから聴いてもらうといいと思う。


「運命」の第4楽章のファンファーレは、このあたりでどうだろうか。


タカーチ弦楽四重奏団の最終楽章(5:30~)は、壊れてしまった感が強く出ている。


バルトークの曲を音源だけで聴いて、何が面白いのか分からないという人は、実演の動画を見ることをお勧めする。上海クァルテットの動画の31:00あたりからの流れを見ると、いかにとんでもないことが起こっているか分かりやすい。興味をもってもらえたら、最初から見てみてください。