合間縫う腑に落ちない音楽

肩透かしのカタストロフィは続く

音楽

三善晃「反戦三部作」と能

眠たい(by 天竺鼠 川原)。でも先週の三善晃「反戦三部作」の感想をメモしておかないと…。たった一週間前のことなのに、もうだいぶ前の話に思える。指揮をした山田和樹さんもインタビューで三善作品を「揮発する」「虹のようなもの」と表現しているけれど、…

坂本龍一「funeral」YouTube版リスト

坂本龍一が自分の葬儀で流すことを想定したプレイリスト「funeral」が公開されました。しかしSpotifyなので全曲聴けない人もいるかと思い、YouTubeで検索してリスト化しました。クソ忙しいのに何やってるんだw open.spotify.com これを機会にフランス近代音…

坂本龍一と「恥の感覚」

Photo by zakkubalan ©2022 Kab Inc きのうは歌舞伎町の109シネマズプレミアム新宿で、映画「Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022+」を見てきました。4500円で山盛りのポップコーンと飲み物つき。大きめのシートはふかふかしていて左右に食べ物と飲み…

人の欲望と意思決定について

先日、移住に関するインタビューということで、ある大手企業の方々と1時間ほどお話をした。彼らは彼らなりの仮説をもって臨んでくれていたようだが、想定通りの答えが返ってこないもどかしさを感じているようだった。 私としては訊かれたことへ自分なりに誠…

大貫妙子の「新しいシャツ」と坂本龍一

もう何年も前、坂本龍一が出演するラジオ番組で大貫妙子がゲストの回を偶然聞いたことがある。そのときの大貫さんのはしゃぎっぷりとデレぶりがもう異常で、これはただならぬ関係なんだろう(あるいは、だったんだろう)と思った。 一方で、80年代以降の大貫…

KIRINJI(弟脱退後)および参加作品でTop10を選ぶ

考えてみればブログの名称自体がキリンジ由来なのだから、もっとキリンジについて書いておくべきだった。とはいえ、キリンジマニアは世にたくさんいるだろうから、「これは絶対に聴いておきたいTOP10」に加え、とりあえずもう1本くらい書いて少し様子を見よ…

キリンジの「これは絶対に聴いておきたいTOP10」を作ってみる

この間、「冠水橋」についてブログを書いたら意外と読まれたので、お盆休みで暇をもてあましている人が多いのではと思い、無粋にも「これは絶対に聴いておきたいキリンジTOP10」を作ってみようと思う。異論は認める。 ちなみに背景としては、90年代の初頭に…

キリンジの「冠水橋」を見に行く

先日、2週間の試験期間を坂戸のアパートで過ごした次女が、最終日に喉が痛くなったというので、そのまま閉じこもってもらい、朝から大量の食料と水、それから着替えやお菓子や現金などを渡しにいった。そこでふと、自分にも坂戸に用事があったことを思い出し…

積分の音楽:ファビオ・ルイージとN響の「チャイ5」

これは偏見かもしれないですが、日本のオーケストラも聴衆も、音楽を作品全体ではなく、その瞬間瞬間の響きだけで楽しんでいる、というか、そういう演奏がウケているような気がしてなりません。 そうすると、結局は勢いがあるとか熱い演奏とかいう評に傾くの…

立花隆さんに「知の巨人」はそぐわない

立花隆さんが亡くなっていた――。そんなニュースを見ながら、そういえば彼に関する思い出があるんだったと思い出した。歳のせいで思い出すのに時間がかかるようになってしまったし、もう二度と思い出さないかもしれないのでメモ。 福利厚生の手厚い出版社に勤…

タレイア・クァルテット@安養院

とても満足したコンサートだったので、あえて言葉にするのも億劫だなと思ったけど、悲しいことに記憶というものは薄れてしまい、いつしか消えてしまうものなので、備忘録として。 プロジェクトQ・第16章のバルトーク弦楽四重奏曲シリーズ(2019年2月24日)で…

「醜態をさらすより、早く死んだほうがいい」と言われたユーミンの今をあなたは見たのか?

2020年の印象的なできごとのひとつに、朝日新聞「論座」の暴走があった。 筆者の選定からしてジャーナリズムを放棄した活動家が目につき、事実による検証という本来のジャーナリズムを続けている同じ会社の峯村健司さんなどが気の毒になった。 そんな筆者の…

「未来の国では、全員アマチュアの時代が来る」(ロラン・バルト)

YouTubeの醍醐味は、なんといってもアマチュアの投稿だ。 私室の一角で、他人の眼を意識せずに、たったひとりで撮った動画がいい。そして、それをひとり覗き見するようにして視聴するのは、特に楽しい。 もちろん、プロが作り込んだミュージック・ビデオを繰…

シェーンベルク「浄められた夜」は美しい音楽への別れのラブレター

きょうは37.5度の熱が出て午後は半休をとったのでもう寝ようと思いながらもアレやってなかったので起きて書くことにします。スコア(総譜)ってブックに入るんでしたっけ? #ブックカバーチャレンジ 在宅勤務も2ヶ月半を超えた今日このごろですが、今年1月に…

スクリャービンのピアノソナタ第5番聴き比べ

スクリャービンのピアノソナタ第5番(1907年)をいろんなピアニストで聴き比べ、その違いについてメモして気を紛らわすことにする。 同じ曲を違う人の演奏で聴く意味 考えてみればクラシック音楽というものは奇妙なもので、作品として残っているものは楽譜と…

のん(能年玲奈)さんが語りをした武満徹「系図」のCDが届いた

のん(能年玲奈)さんが語りをした武満徹「系図」のCDが届いた。一度聞いて、この曲の新しい演奏史ができたなとうれしくなった。 www.amazon.co.jp これから繰り返し聴くことで新たな感想が生まれたら追記するけど、第一印象としては、このキャストは大成功…

遠野凪子の「系図」に思うことなど

*「#のん さんによる #武満徹「Family Tree」への期待」を改題。 のん(能年玲奈)さんが武満徹の「系図」の語り手をつとめる録音の発売が、この10月に決まったとネットで話題になっている。 www.barks.jp 初演以来、20年以上にわたってこの曲の価値を訴え…

バルトークの弦楽四重奏曲第5番の謎を解く

結論から書くと、バルトークの弦楽四重奏曲第5番(1934年)は、ベートーヴェンの交響曲第5番(1808年)にインスパイア(触発)されて書かれたのではないか、という仮説である。その理由を3つあげる。 なお、この説はよそでは見たことがないので、自分のオリ…

BBC「Proms」の過去の演奏会で最も視聴されているYouTube動画は何か?

前回、プーランクの動画を探索する過程で、「BBC Proms」の動画をピックアップした。その後、ふと確かにイギリス人は、クラシック音楽のエンタメ化に成功していることに気づいた。 プロムスの解説はWikipediaに譲るが、要するにBBCがスポンサーになったプロ…

プーランク「六重奏曲」をコンサートホール以外で演奏する試み

クラシック音楽をカッコよく撮る方法について、とりとめもなく考えてきたのだか、不図したことで面白い動画に出会った。 曲はフランシス・プーランクの「六重奏曲」である。ピアノと4本の木管楽器(フルート、クラリネット、オーボエ、ファゴット)、それに…

YouTubeにおける弦楽四重奏の扱いの現状

きのうは「クラシック音楽をカッコよく撮る」などとイキってしまったが、実は実態をよく把握していなかった。新しい市場を作るのだから、市場調査に振り回されてもしようがないのだが、やはり現状は知っておくべきだ。 ということで、YouTubeで「String Quar…

ベートーヴェン「運命」の正しい鑑賞法を考える

※ある媒体から頼まれてボツになった原稿。想定読者は音楽の教師。子どもたちの音楽教育が少しでもいいものになってほしいという祈りを込めて。 日本人にとって、俗に「運命」と呼ばれるベートーヴェンの交響曲第5番がクラシック音楽の代名詞のように思われて…

サンソン・フランソワの弾く「レントより遅く」

最近、オフィスで仕事をしながら、イヤフォンで音楽を聴くことが増えた。 販売や飲食、製造ラインでもない限り、大勢の人たちが集まって仕事をする必然性は、いまやほとんどなくなったと言っていい。 にもかかわらず、わざわざ出勤するのだから、イヤフォン…

蓮実重臣くんと音楽の魔法

蓮実重臣くんが死んでしまった。同い年の彼を紹介してくれたのは同じ大学の先輩Mさんで、彼女がある音楽集団(しばらく後にそれが京浜兄弟社という天才の集まりだと知る)のコンピレーション・アルバムに参加するので、演奏の手伝いをしてほしいという。お…

男女6人浄夜物語

長い金髪をたなびかせる、艶やかな1stヴァイオリンの女性(左端の半袖)。 彼女の取り巻きはジャケットを着た2人のイケメン、「アッシー」2ndヴァイオリンと「メッシー」1stヴィオラだ。 それでも果敢に挑む2本のチェロたち(ジャケットなし)。特に2ndチェ…

「顔芸」を使わないブーレーズ

ユリイカの「追悼特集ブーレーズ」の原稿依頼が一向に来ないので、彼の指揮ぶりの違いについて一本書いておく。 YouTubeの動画を見れば分かることだが、オーケストラの指揮者の多くは「顔芸」で仕事をしている。歓喜に満ちた顔、楽しそうな顔、悲しそうな顔…

ブーレーズと「夜明け」

終電で寝過ごして、終着駅で駅員に起こされて割増タクシーで帰ってきても、やはり当面はブーレーズについて1日1本は書いておかなければならない。 夜道をとぼとぼ帰りながら記憶をたどれば、闇夜に差す光の表現が秀逸だったことが思い起こされる。 もっとも…

ブーレーズと2つの「浄められた夜」

作曲家で指揮者のピエール・ブーレーズが90歳で死んだ。何が書けるというわけでもないのだが、何となく色々楽しませてもらったお礼も込めて、それを知った日のうちに何か書き残しておきたい。 彼のいろんな経歴や、自分のブーレーズ遍歴を書いても切りがない…

いまどき「クラシック音楽」を熱心に聴く明確な理由

クラシック音楽を聴くという行為に、いまさらなんの意味があるのか。 録音技術が発達したいま、同じ曲を何人もの演奏家が、繰り返し楽譜通りに弾くことに意味はあるのか。アーチストの作家性とパフォーマンスの一回性に賭ける大衆音楽に、明らかに負けている…

アメリカの音楽院で権勢を振るう東洋系美人演奏家たち

最近、NEC室内オーケストラの動画をよく見ている。といっても日本の電機メーカーではない。ニューイングランド音楽院のオーケストラのことだ。 つまりアマチュアの学生なのだが、これがバカにならない水準で、特に弦楽合奏の曲はなかなか聴かせる。例えばシ…